大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(行ケ)15号・昭46年(行ケ)16号 判決

事実及び理由

一  前掲請求の原因のうち、原告らが実用新案権を有する登録実用新案について、被告らからなされた登録無効審判の各請求により各審決の成立にいたる手続、考案の要旨及び各審決の理由に関する事実はそれぞれ関係の当事者間に争いがない。

二  そして、原告らは、右各審決の前示理由中、右考案と第一引用例のものとの間に段ボール箱用原板の防水処理方法に関する構成上差異がないとした判断の不当を審決の違法事由として主張するので、その当否について判断する。

1  本件考案は、その要旨によると、段ボール構成要素である「ライナ1、2及び波状中芯3のあらゆる露出面、接着面及び成形前後の切断面を防水皮膜5で包被」することを要件(原告ら主張の(ハ)の構成の一部)とし、成立に争いのない甲第四号証(本件考案の公報)によると、その明細書には、実施態様として「防水剤としてはパラフイン、浸透性合成樹脂、これらの混合物等を使用し、この防水剤を収容した槽内に上記成形後の段ボール本体を浸漬した後、波状中芯3の縦筋が鉛直となるように懸垂し、あるいは乾燥用枠に斜に立てかけ、熱風または赤外線を段ボール本体に当ててこれを加熱し、ライナ1、2及び中芯3のあらゆる露出面、接着面及び切断面にある過剰の防水剤を再溶融して、各ライナ1、2及び波状中芯3の心部まで浸透させるとともに、上記のあらゆる露出面、接着面及び切断面を防水皮膜5で包被し、同時に過剰の防水剤を表面からたらして取除く。」と記載されているから、これらの事実によれば、浸漬後の加熱段階において「過剰の防水剤を再溶融」するものである以上、浸漬後取出されて加熱する直前の段ボール紙には当然防水剤が固化して付着しているものであり、また、加熱処理により再溶融した過剰の防水剤を「各ライナ1、2及び波状中芯3の心部まで浸透させ」、「同時に過剰の防水剤を表面からたらして取除く」ものである以上、段ボール紙の表面において、加熱中は再溶融した防水剤が液状で流動し、加熱終了後、取除かれず、残留した溶融防水剤がそのまま冷却固化して皮膜を形成するに至るものであると認められる。ただ、右明細書の記載は概括的であり、右甲号証によると、そのほか皮膜形成のため必要な浸漬及び加熱時における各温度、時間等の具体的条件については何ら記載されていないことが認められる。なお、原告らは、本件考案においては浸漬後防水皮膜形成のため必要とされる低温処理により溶液の条件を変える旨を主張するが、右甲号証によると、そのような事項も右明細書においては言及されていない。

2  一方、第一引用例に少くとも「二枚のライナ紙間に波状紙を介在させてなる段ボール紙を、製函しうるように打ち抜かれた形状とし、このように構成した段ボール紙をワツクス、樹脂等よりなる含浸剤に紙材料の全重量の少くとも二六%になる程度まで十分な時間浸漬することにより含浸し」てなる紙箱用板紙に関する発明が記載されていることは原告らの認めて争わないところであり、成立に争いのない甲第一号証(第一引用例)によると、その明細書には、右発明に関連して次のように解される記載があることが認められる。

(ⅰ) この発明は板紙及びその製造方法、特に、箱に組立てるための素材の形状に製造し、次に含浸を行なう段ボール紙に関するものであること(第一欄一五ないし一八行目)、

(ⅱ) この発明に従うと、組立てられた素材はコーテイングとは区別される浸漬によつて浸みこまされ、その含浸物質の量は含浸された素材を続いて熱処理することによつて調整され、過度の含浸剤はその熱処理の間に取除かれること(同欄四〇ないし四六行目)、

(ⅲ) その基礎材は究極的には段ボール箱を作るために組立てられる段ボール紙からなる素材が好ましいこと(同欄五九ないし六二行目)、

(ⅳ) この発明によると、板紙、特に段ボール紙は、合成物を含浸させることにより、多くの物理的性質を改善させられること(第二欄一三ないし一六行目)、

(ⅴ) 多くの試験の中で最も良い結果は重量で約八〇の割合のワツクスと約二〇の割合の樹脂とを含有した合成物により得られたこと(同欄二五ないし二九行目)、

(ⅵ) その選定された比率のワツクスと樹脂とを一八〇ないし二五〇度F、好ましくは二一〇ないし二二〇度Fの温度で槽中において溶融して混合し、次に、段ボール板紙または他の繊維性物質を、適切な含浸をするため、少くとも一五秒ないし五分間この槽の中に完全に浸し、―含浸剤は含浸した素材の全重量の二六ないし三七%であるべきことが分つているので、―この液浸を、含浸剤が素材全重量の少くとも二六%になる程度まで、十分に長く続けること(同欄三〇ないし四三行目)、

(ⅶ) それから、この含浸した素材を槽から取り出し、その全重量の約三七%を超える含浸剤を取除くため、これを二五〇ないし三五〇度Fの温度を保持した加熱室に導入して縦(垂直)の姿勢で通過させるのが好ましいこと(同欄四四ないし四九行目)、

(ⅷ) その室の温度は循環熱風によつて保持され、その熱風は、過剰の含浸剤を素材から取除いて浸漬タンクに戻すため、素材に対して下降方向に吹き付けられること(同欄五一ないし五五行目)、

(ⅸ) 添付図面は重量で七〇ないし九五の割合の鉱ろうと五ないし三〇の割合の石油重合樹脂を含む合成物を二六ないし三七%含浸させるものを示していること。(添付図面の説明)。

原告らは、第一引用例のものにおいては本件考案と異なり、素材の表面に防水剤の皮膜が形成されないと主張するので、この点について考察する。

(一)  コーテイング法の採否について

原告らは、右主張の根拠として、第一引用例に「本方法はコーテイング法ではなく、浸漬による含浸法である。」との記載があると主張し、前出甲第一号証によると、第一引用例には、前示(ⅱ)の冒頭のように、「In accordance with the present invention, the fabricated blanks are impregnated by immersion, as distinguished from coating, ……(直訳すれば「この発明に従うと、組立てられた素材はコーテイングとは区別される浸漬によつて浸みこまされ……)」との記載があるが、他には原告主張の記載に該当するものと解される個所はない。そして、成立に争いのない乙第一号証によると、製紙技術の分野においては、塗工機により原紙に塗料を塗ることをコーテイングと称していることが認められるから、この事実に前出甲第一号証を併せ考えると、右引用例の発明においては、防水剤(含浸剤)を浸みこませるため、段ボール紙素材を防水剤に浸漬する方法を採用したものであること、されば、同引用例における「by immersion, as distinguished from coating(コーテイングとは区別される浸漬によつて)」との記載はその方法が「塗工機による塗装」ではないことを念のため示したにすぎないものであることが認められ、従つて、ここにいう「coating(コーテイング)」を「薄い塗布層」ないしその形成法たる「上塗」という一般的な意味に解すべき余地はない。

そうすると、右引用例のものにおいては用材の表面に防水皮膜が形成されないという原告らの主張はその根拠の一つを失うことになる。

(二)  防水処理の条件について

第一引用例に、原告ら主張のように、素材のあらゆる面を防水皮膜で包被することについてあらたまつた記載がないことは前出甲第一号証によつて明らかである。しかしながら、第一引用例の発明における前示のような浸漬処理方法を本件考案の前示のような実施態様と対照すると、前者によつても防水皮膜による包被が行われることが判明する。すなわち、

まず、第一引用例のものにおいて、鉱ろうと少量の石油重合樹脂とにより組成される含浸剤が本件考案におけるパラフイン、浸透性合成樹脂、これらの混合物等よりなる防水剤と実質上同一であることは本件口頭弁論の全趣旨に徴して明らかであるところ、第一引用例のものにおいて、段ボール紙素材を一八〇ないし二五〇度F(約八二ないし一二一度Cに相当する。)の含浸剤を溶融した槽中に一五秒ないし五分間完全に浸漬し、含浸剤が素材全重量の少くとも二六%になるまで浸透させる浸漬処理方法は、温度及び時間の限定がある点を除き、本件考案のそれと全く同一である。したがつて、本件考案において浸漬後取出された段ボール紙に前示のように防水剤が固化して付着している以上、第一引用例のものにおいてもこれと同様の状態が生じるものということができる。原告らは、第一引用例のものにおいて高温処理をするのは防水剤を素材に含浸させ、過剰分を取り去るためにすぎず、これだけでは、素材に防水剤を固着させることができないと主張するが、一般に、鉱ろうの一種であるパラフインは四五ないし六五度Cを融点とし、石油重合樹脂は七〇ないし一四〇度Cを軟化点とし(以上の数値は岩波理化学辞典による。)、いずれも常温では固形化している物質であるから、これらによつて組成される含浸剤の前記浸漬温度の溶融槽中に素材を浸漬した後取出せば、その表面には過剰の含浸剤が付着して、温度が下がるとともに固化するものと考えられるから、原告らの主張は採用することができない。

次に、第一引用例において、溶融含浸剤槽から取出され、含浸剤を固着させている状態の段ボール紙素材からその全重量の二六ないし三七%を占める分を残し、三七%を超える分の含浸防水剤を取除いて含浸の程度を適正にするため、その素材を二五〇ないし三五〇度Fの温度に保持された加熱室に導入し、縦(垂直)の姿熱で加熱室を通過させる加熱処理の方法は、温度及び過剰量の限定がある点を除き、本件考案において概括的に示されている加熱処理とほぼ同一であり、過剰の防水剤を除去する目的においても一致している。したがつて、第一引用例のものにおいても、本件考案と同様、加熱中に再溶融した含浸剤は素材の表面を液状で流動し、その過剰分が取除かれ、加熱終了後残留した分がそのまま冷却固化して皮膜を形成するものと推認するに難くなく、右認定は、成立に争いのない乙第三号証により認められるように、第一引用例に示された範囲内の処理条件により段ボール素材に浸漬及び乾燥(加熱)処理を施したところ、その条件次第で差異が現われるにしても、一般に、段ボールの素材たるライナ紙の表裏面、波状中芯の表面のほか、接着面及び切断面にも防水皮膜が形成されるという試験結果が出たことによつて十分に裏付けられ、甲第九号証、第一〇、第一一号証の各一、二、第一四号証、第一五号証の一、二、検甲第一ないし第三号証の各一ないし五をもつてしては、これを覆すに足りない。原告らは、第一引用例のものにおいては、防水皮膜形成に必要とされる低温処理を欠き、また、防水剤乾燥の温度が高すぎるため、防水皮膜が形成されないと主張するが、段ボール紙の素材上に溶融含浸剤が流動している状態において加熱を終了しさえすれば、これに格別低温処理を施すまでもなく、自然冷却によつて表面に皮膜が形成されるのが通常であり、また、乾燥温度が高くても、浸漬温度の場合と同様、これが低下すれば、自然に含浸剤の固化が生じるものと考えられるから、原告らの主張は採用することができない。

3  ところが、成立に争いのない甲第六号証の一ないし四(昭和三六年三月一〇日発行の月刊「段ボールの技術」)には、「耐水性とは、水分あるいは湿気に対して強いということであり、防水性とは水の浸透あるいは浸入を防ぐ性質を意味しており、前者は水に対する『ぬれ』に対しては殆ど関係なく、一般に容易にぬれる性質を有していることも多いが、後者は本質的に水に対するぬれを防止する。」、「段ボール箱にあつては水に対する性質のみを考えれば防水性であることが最も理想的であるが、普通防水処理を行うことによつて紙の特性である通気性が失われ、特に『なまもの』の包装には致命的な欠点となることが多く、また加工上にもかなり困難であるのでいろいろな点から耐水処理がほどこされることが多い。」、「前記のごとく耐水処理して、原紙にさらにパラフインワツクス、ポリエチレン、その他の撥水剤をコーテイングをすれば一時的な水分に対しては効果を発揮する。」、「コルゲート後に塗布する方法もあり、さらにできた段ボール箱にパラフインを溶融して塗布または含浸することもある。」との記載があることによると、段ボール箱の素材に防水処理をすることは本件考案の出願当時既に慣用の技術であつたことが認められるから、さきに説示のとおり、本件考案が素材のあらゆる面を防水皮膜で包被することを構成要件に加え(前示(ハ)の構成の一部)ながら、その明細書に皮膜形成の実施態様の概括的説明があるに止まり、これに必要な具体的条件が格別示されていないこと、また、第一引用例のもののように、素材の含浸剤(防水剤)浸漬、加熱処理をしただけでも自ら防水皮膜が形成されることを併せ考えると、防水皮膜形成の具体的手段は、他に格別の考案を要することの論証がない以上、その当時、当業技術者に周知であつたものと認めるのが相当である。

そうだとすれば、A、B各審決が、第一引用例に防水皮膜に関する記載のないことを認めながら、その発明においても、本件考案と同一の含浸剤(防水剤)の処理が行われることを理由に、段ボール紙素材のすべての面が含浸層(防水皮膜)で包被されるとして、両者のこの点の構成に差異がないと判断したのは正当というべきであつて、各審決に原告ら主張の違法があるということはできない。

三  よつて、本件A、B各審決の違法を理由にその取消を求める原告らの本訴各請求をいずれも失当として棄却する。

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